デザインスタジオクセモノ
Xemono Inc.
2024/03/25
四角い枠
中井久夫という人がいる。私が最も尊敬する人の一人で、神戸の精神科医だ。当時はまともな治療法がないとされていた分裂病の治療過程の研究に尽力した。現在ではその病気は統合失調症と呼ばれて、薬を続ければ十分やっていける程度のものになっている。
中井久夫のすごいところは、とにかく人間をよくみているところだ。当時の精神医療は長期入院が多かった。中井は患者に定期的に絵を描いてもらって、病態の変化と共にどのように絵が変わっていくかを調べた。
しかし、白紙をポンと出されて、なんでも描ける人もいれば、そうでない人もいる。中井は強要しない。そのことを書いているエッセイには、一言、「手が止まるようなら、こちらで四角い枠を目の前で書いてやると多少進めやすいようだ」と書いてある。
どれだけ人を見ていたらこんなことをさらりとやれるのか。このレベルの工夫を日々やってのけてるの、恐ろしいよ。
会ってみたかったな、と思うが、2022年に亡くなってしまった。
しかし、たくさん本を書いてくれたので、私は患者でも学生としてでもなく、読者として中井久夫に会うことができる。できるんだけど、敬愛は少し寂しい。